もりたのおもしろいものたち。

雑記:かゆいところはございませんか?に対する完璧な答えを考えてみた。

 

 どうも、もりたです。

 

 先日美容院に行きました。僕がいつも通っているところは心斎橋にあるとんでもなくお洒落なところなんですが、どのくらいお洒落かというと僕が心斎橋にあるまあまあ高めのお洒落なレストランに無理して女の子を連れて行った話を美容師さんにしたら、「ああ。あそこの店長、ここの常連なんだ」って言われたくらいにはお洒落なところです。あな恐ろしや。ちなみに切ってもらってる美容師さんも海外で講師をしていたり、どっかの有名なコレクションでヘアスタイリストを勤めている超人です。そんな人の1時間を奪って、髪を切ってもらってるわけです。まじですみません。

 

 そんな高級な美容院で髪を切って頂いている僕ですが、とんでもなく小心者です。いまだにその美容院に入る際には軽く「〇〇時に予約していた〇〇です」を3度ほど小声でシュミレーションします。噛みたくないから。めちゃくちゃ美人な受付さんがいるので大変なんです。しかも3人も。スーツで待機しています。ユニクロとか無印良品のパーカーとか着といてほしい。こちらは1人なのでどうあがいても勝てません。メンバーズカードを忘れようものならその場で罪に苛まれ、泣きだしてしまいます。

 

 それくらい小心者の僕なのですが、美容院で一番嫌いな言葉があります。

 

「かゆいところはございませんか?」です。

 

 シャンプーされようものなら100%の確率で聞いてくるじゃないですかやつら。そして、99%の確率でかゆくないじゃないですか。そもそもシャンプーの時にかゆくなることってありますか。自宅のお風呂でもちょっとおでこがかゆくなるくらい。だからっておでこって言えるわけもないじゃないですか。「額」なんて言おうものならそのまま放り出されますよ。だから、身構えているんです。

 

「かゆいところはございませんか?」に。

 

 頭を洗われているときは脳が一番活動しています。これは一種の通過儀礼。「かゆいところはございませんか?」その言葉に難なく答えられてこそようやくこの美容院に通うことを許される。僕はその切符が欲しい。だから、僕は様々な答えで彼ら美容師の心にかけられた錠を外そうとする。これは僕と美容師の争いの記録。

 

 というわけで、様々な答えを考えてきました。

 

 

 

 

「かゆいところはございませんか?」

 

1.「はい」

 

 もうダメ。この2文字で返そうものなら、あとで鼻で笑われてしまう。その時はやり過ごしたように感じても、彼らの問いに対してたった2文字で返答したことは店を出たあとにはやり玉にされる。あげつられる。twitterに書かれる。「はい」なんて言葉では、彼らからの認可はいただけない。これは店からの試練なのだ。そんなありきたりな言葉では鍵を開けることはできない。最悪の場合、死に至ることだってある。シャンプーされている人間は、赤子より無力という言葉を知っているだろうか。美容師の温情にて私達は生かされていることを知っておかねばならない。シャンプーの際に寝首をかかれることはありえることなのだ。三国志で有名な張飛もシャンプーされている時に殺された。つまり、「かゆいところはございませんか?」に「はい」で答えるのはほぼ死と同義である。我々の生殺は美容師が握っている。これは常識。

 

 

 

「かゆいところはございませんか?」

 

 

2.「大丈夫です」

 

 いったい何が大丈夫なのか。「はい」ではぶっきらぼうではないか、性格の悪い客だと思われるのではないかと配慮した結果がこうなる。これは悪手である。ネテロにも笑われる。美容師が私たちの命を握っている限り、つまり、シャンプーされている間は彼らが上位であることは間違いない。しかし、そこで遠慮したところで何も始まらないのである。美容院に認められる、とは美容師と対等になることだ。ここでこちらから距離を置いていては、一生美容師から怯える生活を過ごすこととなる。美容師はゴマンといる。奴らは寝ている間に部屋に忍び込み、シャンプーしてくる。水道管を繋ぎ、ベッドの高さを調節し、顔に白い布をかけてくる。「かゆいところはございませんか?」それが生涯で最期に聞いた言葉になることもありえる。つまり、美容師に対して逃げ腰であることは人生の最期をシャンプーで迎えることと同義である。

 

 

 

「かゆいところはございませんか?」

 

 

3.「全然」

 

 しかし、こう気丈に振舞ってみてもいけないことは皆目同然。旧約聖書にも書いてある。さながら7年間もつきあい、結婚も考えていた彼氏にふられた32歳のOLが友達に「つらくないの?」と言われた際に首を振りながら言う「全然」くらい虚勢に満ちあふれていることがわかる。そんなことを聞いてくる奴は友達ではない。シャンプーされてしまえ。美容師に虚勢は通用しない。彼らはプロだからだ。感情の機微が頭皮でわかる。シャンプーが終わったあとの頭皮マッサージには、ちょっとした洗脳効果があることが判明しているのは世界的常識だ。彼らに虚勢は通用しない。「全然」などと言ってしまったら、ドライヤーで乾かすときにふわふわにしてくれなくなる。嘘つきにはそれがお似合いよ、と言わんばかりにぺたぺたにされる。あと、飲み物もくれなくなる。

 

 

「かゆいところはございませんか?」

 

 

4.「いいよ」

 

 思わぬ発言に美容師は戸惑う。世の中の質問は2種類に分けられることをご存知だろうか。オープンド質問とクローズド質問である。オープンド質問とは「好きな食べ物はなんですか?」などといった「はい」か「いいえ」で答えられない質問のことだ。では、クローズド質問とは何か。「かゆいところはございませんか?」まさしくそれである。「はい」か「いいえ」で答えられる質問を、クローズド質問という。つまり、美容師は実際「はい」か「いいえ」で答えられる質問で我々を試しているのだ。会話の主導権は、美容師にある。しかし、「いいよ」と答えられた美容師はどうだろうか。途端、彼らは選択肢の渦中に飲み込まれる。いままで常に持っていた主導権を手放すことになるのだ。どうしたらいいのかわからなくなる。手が震える。シャワーの水が眉毛を濡らすことも多い。しかし、「いいよ」という言葉に温かみを感じる。柔らかい春の日差しのようだ。「いいよ。好きにやっちゃって。君のことを信頼しているから」皆まで言わなくてもわかる。そう、この言葉は全幅の信頼を美容師に捧げることで生まれる言葉。美容師と客。このシャンプーで緊縛した空間に、一筋の光がさす。

 生殺の権利を持つものにすべてを委ねるのは、勇気のいることかもしれない。しかし、その「いいよ」が襟足を洗うときに持ち上げる美容師の手の力を緩めるのだ。リクライニングを戻す速度も遅くなる。その時こそ、私達は互いに認め合う。シャンプーしたままでは君を抱きしめることはできない。昔の人はよく言ったものである。

 

 

つまり、「かゆいところはございませんか?」に対する正しい答えは「いいよ」だったのだ。

 

 

 

皆さんもぜひそう答えて欲しい。

僕は無視されました。