もりたのおもしろいものたち。

エモを書く男。「忘れ去られた「M」に関する記述」

 
 ONE PIECEに登場するドクターヒルルクは自らの死期を悟った際にこう語っている。「人はいつ死ぬと思う?人に忘れられた時さ」全文を語ることはしないが、当時の僕にはこの言葉が胸に深く、強く響いた。そして、今の僕。つまりはコピーライターを目指している僕にとって、この言葉はより大きな影響を与えている。死んでも形として残る言葉。それを誰か1人でさえ覚えていてくれたら僕はずっと生き続けるのじゃないか、と。

 

 そんな想いも重なって、この言葉は大きな意味を持っている。そして、それを思い出す度に人の記憶の限界の先、その外に消えてしまった存在のこと。僕が殺してしまった記憶たちを度々思い出してしまうのだ。そう、「M」についての記憶を巡ることとなる。「M」との出会いは高校時代にまで遡る。凍りついていたその姿がゆっくりと熱を帯びていく。

 

「M」は、その存在を認識されるまでずっと待っていた。僕が生まれた時からずっとそこにいたはずなのに、彼を知るまでに約16年もの歳月を費やした。待たせてしまっていた。人を待つ。その辛さがわかる歳になり、自分は随分酷いことをしてしまっていたという悔いが残る。しかし、彼は健気で実直で素直だった。僕がその存在を知る。つまりは、僕の中で彼が脈打ちはじめた時、彼は僕に暴言を吐くこともなく、ただただ己が才を僕に差し出してくれた。そう、出会いはボタンに手が触れたその時だったーー。

 


「M」とは、電卓のメモリーのことだ。

 


 電卓における、いわば数値を保存する機能であり、M +やM -というボタンを押せば、その保存されている数値に対して、現在表示されている数値を加えたり引いたりしてくれる。そういった優れた機能である。彼と出会わずに今まで人生を過ごした人も多いのではないか。その存在を認識していても、使用しない。そういう人も多いだろう。上に挙げたボタン以外にも、MRCやRMというボタンがあり、それを押すと現在保存されている数値が画面上に表示されるようになり、その命を認識できる。

 

 そして、それをクリアしないと、彼は一生画面に「M」として残り続けるのだ。その数値を保存したまま。忘れ去られたとしても。「M」は君を待っている。この数値がいずれ君の為になるだろうと信じて。そんな忘れ去られた「M」を、どうか一度手持ちの電卓を見て、確認してほしい。

 

 もしかしたら画面に小さく残るそれは、君が青春時代にそっと隠した数値かもしれない。無邪気な子どもの頃の君が無造作に叩いた数値かもしれない。君が会社で辛い時に押し込んだ数値かもしれない。「M」はそんな想いとともに、君を待っている。ただ彼はもう一度忘れ去られてしまい、その数値が君にとってもはや価値のないものならば、それは彼にとって死であることに変わりはない。死は戻らない。彼が蘇ることもない。死体を冷凍保存しても、それに命が宿ることはない。

 
 ただ、そんな彼を消すことは出来る。そしてそれこそが、僕らができる彼への最大限の手向けなのかもしれない。そうして彼は責務を終え、土へと還る。忘れることが死だと言うのならば、彼を思い、心に刻んで生きていこう。

 


 そうして、「M」は僕らと共に生きていく。

 


 この世にあるすべての忘れ去られた「M」が電卓から消えることを願い、この記述を終わらせていただく。

 

 

  バカがエモい文章書こうとしたらこうなります。