もりたのおもしろいものたち。

MVを見る男。くるり「琥珀色の街、上海蟹の朝」

 

(見る前)

  曲を先に知っていた。曲名の美しさは素晴らしく、一度聞いたら耳から離れない。くるりは毎度毎度ジャンルが変わるのでどんな曲かと思えば、どハマりした曲だ。そんな曲だったのでMVを見ることにした。

 

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 アニメーション。世界観の説明がないまま始まる物語は、ある意味SFなんかの非日常というよりは日常のその先にあるかもしれないお話という感覚を抱いた。(または、現在の日常を誇大的に表現している。)不穏な空気を発しながら、物語は微笑ましく続いていく。コメディで仲間を集めていくシーン。海辺のドライブ、犬と戯れる、中華料理人の小籠包を食べる。そのどれもが可愛らしく描かれている。

 

 しかし、その裏で起こる地上から宇宙船で脱出するなんてイベントは、どう考えてもシリアスな事態が起きていることの象徴でしかない。地球が崩壊するとかもうそのレベルだ。そんな状態でなお呑気な彼等は、彼女を探す旅を続ける。目指すあの子は空の上。それなのに、地を這うようにドライブを続ける。

 

 最後に、彼女は宇宙船を飛び降りて、地上の彼の元へと向かう。その時に一瞬だけ彼女の顔に影が差すのは皆さん気付くだろう。あの一瞬が彼女の不安を表現している。地球が終わるかもしれない。そんな時にわざわざ地球に飛び降りる。それが彼女にとって、正解なのかどうか。その不安が一瞬だけどちらつく。そして次のシーンには笑顔になっている。それでも、選んだのだから。

 

 きっと彼等は幸せにその最後まで過ごすだろう。その選択が彼女にとって、正解だったのかはその時までわからない。

 

 そんな壮大な事件のなかで、起こる小さな出来事みたいな話。嫌いじゃないぜ。

 

 だからこそ、現実的な構築に置き換えるのであれば、それはきっと進んでいく未来と取り残される者たちなのかもしれない。上海という言葉が、その驚異的なスピードで成長していく都市を思わせるように。明後日ばかり見てた君という歌詞とMVに出てくる宇宙はまさしく、未来を表現している。シティポップであるこの曲がまた、レトロな雰囲気を醸し出しているのもこのMVの構築がその対比を表現しているように感じてならない。

 

 未来を目指していた彼女は、過去への忘れ物を取り戻すために地球へと戻る。未来に置いていかれるのは不安だけれど、それらを忘れたままじゃダメなんだよ。

 

 急速に進化していくこの世界でも、やっぱり忘れてはいけないものがたくさんあるんだから。

 

 切なさの正体は、発展していく世界から取り残されたものから溢れるノスタルジーだったんではないでしょうか。

 

 アーティストはタムくん。これからもどんどん映像作品をお願いします。

 

琥珀色の街、上海蟹の朝

琥珀色の街、上海蟹の朝