もりたのおもしろいものたち。

雑記:道端で聞く他人の会話にゾクゾクするタイプの変態です。

 

「でも、さとしくんには彼女ができちゃったから」

 

 クリスマス前に横断歩道を渡る女子2人のうち1人が僕とすれ違う時にそんな言葉を漏らした。僕は思わず振り返って、彼女らの背中を目で追ってしまっていた。得も言えぬゾクゾク感が僕を包み、即座に画面バキバキのiPhone5Sでメモした。そんな衝撃的な出会いであったのについすっかり忘れていたのだが、近日無事発見された。あ、どうも、もりたです。いずれこの性癖については書きたかったのだから、これは頃合だというiPhoneからの合図だと考えて、いま文章に起こしている。

 

 何を隠そう、僕は他人同士が話している会話にゾクゾクしてしまうタイプだ。これはすごく気持ちがすごく悪い。「やっぱりiPhoneだよねー」なんて会話をしている人がいたら「そうそう。僕もそう思うわ」って脳内で返してしまうし、「今日は焼肉の気分だねー」なんて会話をしている人がいたら「いや、今日は寿司の気分」なんて脳内で返している。ええ。まだ脳内なんで許してください。梅田で変質者が会話に混ざってくる事案が発生なんて報道があったら僕ですが、僕はまだ自制心があるので。まだ。

 

 だって、急に会話に入ってきたら普通の人なら「なんだコイツ」って思うじゃないですか。いやそれさえも想像したら楽しいんだけど。日常的なたわいもない会話に突如現れる相槌を打つ侵略者(インベーダー)冷ややかな目も承知で、知らぬ人同士の会話に挟まりたい。挟まりたい!!!そうは言っても、まだ自制心があるからしないんですけどね。もっと人間は関わりない他者に優しくするべき。そういう文化を興すべき。戦争がなくならない理由がまた1つわかりましたね。

 

 ここで先に言っておくと、好きで他人の会話を盗み聞きしているわけじゃないんです。好きだけど。だって聞こえてくるんだもの。不意にえんがわの寿司目の前出されたら思わず食べますよね。いや、僕でも食べないわ。とにかく、僕が言いたいのはそれくらい不意に訪れてくるものだから避けるのも無理だってことです。僕は悪くない。でも、みんなもそういうところあると思う。好きとかじゃなくて、急に聞こえてくる会話に耳が包まれる瞬間。その言葉で頭がいっぱいになる瞬間。それだよ、それ。そういうのが好きなんだよ。

 

「でも、さとしくんには彼女ができちゃったから」

 

 話は冒頭に戻るんだけど、こういう言葉がすごくゾクゾクする。僕の人生で一生関わりない人たちの生活が垣間見れる瞬間。昨日聞こえてきたカップルの「じゃあ、たまにはくら寿司でも食べて帰ろうかな」っていうのもよかった。僕の知らないカップルが僕の知らない間に僕の知らないくら寿司を食べて帰っている。ものすごくゾクゾクしませんか。わかりやすく言うと、高層マンションとかの集合住宅ってあるじゃないですか。あれめちゃくちゃ怖いんですよ、僕。あの塊のなかに知らない人たちがたくさん生活しているんですよ。愛し、笑い、悲しみ、生まれ、死に。知らない人たちが一生を過ごしているんです。さらには、その集合住宅のなかでも、お互いがお互い知らない人。頭おかしくなりませんか。怖すぎ。

 

 僕が実際認知している世界より先がある保証ないじゃないですか。描写限界の向こう側に何があってもわかんないんだから。怖すぎる。で、だからこそこういう知らない人たちの日常が見える会話にゾクゾクするんです。クリスマス前に、少し悲しそうにさとしくんには彼女ができちゃったと呟く女の子。容易くストーリーが仕上がるじゃないですか。ずっと片思いしていた女子大生、ともこ。ともこは親友のあけみにいつもさとしくんのことを相談していた。あけみもずっと親身になって、相談に乗ってくれている。ともこは来たるべきクリスマスに向けて、想いを伝えることを計画した。心弾むともこ。しかし、そんな時にある情報がともこに飛び込んでくる。さとしくんに彼女ができてしまう。ショックのともこ。心配するあけみ。2人は駅から近くのともこの家に向かう最中だった。「あんた、どうすんのよ」と問いかけるあけみ。「あんたの気持ち、どうすんのよ」追い打つあけみ。

 

「でも、さとしくんには彼女ができちゃったから」

 

 そう自分自身に言い聞かせるともこ。前を見ながら、なにも答えないあけみ。その会話を聞く僕。少し寒い空気にともこは立ち止まって鼻をすんと鳴らした。

 

「あーあ」

「今年もひとりぼっちか

 

 ともこがそう悲しく笑うと、あけみが小さく肘でつついた。「私がいるじゃん」そうやって2人は顔を向き合わせると吹き出したように笑い、歩き始めた。この後、ともことあけみはお互いの道を歩み、一流の企業に入社し、素敵な花婿と結ばれ、2人ずつ子を授かる。しかし、会う時間が減ってしまっても親友であることを一生忘れることはなく、おばあちゃんになっても親友のままであった。さとしは振られた。

 

 ~fin~

 

 もう手に負えないので終わりです。

 ありがとうございました。

 

 

 ここまで勝手に想像していたんですが、なんだかさとしくんにめちゃくちゃムカついてきました。

 

 コラッ!!さとし!!フラれろ!!コラッ!!!