もりたのおもしろいものたち。

ラーメンズのコント「風と桶に関するいくつかの考察」の構成が素晴らしいので説明させてくれ。

 

どうも、もりたです。

2017年元旦、ラーメンズのコント100作が無料公開されました。動画の広告収入は日本赤十字社に寄付されるということで 、僕は暇な時はいつでも見ています。ラーメンズを知らない人は、ぜひこの機会にご覧ください。僕がだらだら説明するよりも見てもらったほうがわかりやすいし面白いと思います。

 

今日はその中でも屈指の名作「風と桶に関するいくつかの考察」の構成が素晴らしいということをお伝えしたいんです。

 

まずは、その動画をご覧ください。

 

www.youtube.com

 

めちゃくちゃ面白くないですか。

 

たった8分のコントであり、他のコントに比べると短めに区分されると思います。だからこそ、その構成の素晴らしさが引き立っています。実際の動きにしか見えないパントマイムやそのシュールな設定。そのすべてが考え出された構成によって、魅力的に表現されています。

 

まず前提として、私達はこのコントが「風と桶に関するいくつかの考察」というタイトルであることを知っていますが、実際の舞台「ALICE」ではそのことを知らせていません。観客が最初に与えられる情報は「ああ、風が吹いた」それだけです。

 

このコントは見ていただければわかる通り、オムニバス方式で様々な風と桶に関する考察が挙げられます。

 

締めの台詞である「桶屋が儲かる」とは、ある事象の発生したことでまったく関係ないように思えるものに影響を与えるという日本のことわざです。

 

それを面白おかしく弄ったのがこの「風と桶に関するいくつかの考察」

 

では、その構成を説明していきます。

 

まず最初ですが、オーソドックス桶屋が儲かるパターンから始まります。

先ほど「桶屋が儲かる」について簡潔に説明しましたが、桶屋が儲かるの語源は江戸時代の浮世草子だと言われています。風が吹くことで埃が目に入り、盲人が増える。江戸時代の盲人は三味線を買う(当時の盲人の職に由来)。そうなると、三味線が売れるようになる。三味線に使う猫皮の為に猫が殺される。猫が殺されて、ネズミが増える。ネズミは桶をかじる。桶屋が儲かる。このような流れで桶屋が儲かります。自分が思っていたよりも紆余曲折を経ていて、調べて驚きました。

 

そういう知識を覚えていると、一番最初の独白である「外は埃が舞っている」という部分が語源の一番最初に習っていることがわかると思います。つまり、現代であったとしても「ああ、風が吹いた」という一言から、様々な流れがあり、桶屋が儲かるようになる。そして、決め台詞は「桶屋が儲かる」なんだ。これはそういうコントなんだと、まずは観客に落とし込む。だからこそ、一番語源に沿ったオーソドックスな桶屋が儲かるパターンが一番最初に演じられます。

 

2つめのコントですが、始まり方が少し変わります。「ああ、風が吹いた」の導入は変わりませんが、埃が舞っているのではなく、落ち葉が積もっていることへと変化しています。これは風が吹くことで起こる影響が変わっても、最終的に桶屋が儲かるということをシュールな設定や小ネタを混じえながら表現しています。携帯電話のボタンを押す部分が1回目と2回目が微妙に違う部分も、細かい表現ですよね。しかし、まだオーソドックス桶屋が儲かるから離れていません。ただ、私達は1つめのコントを見ていることで、このコントは最後には桶屋が儲かることはわかっています。だからこそ、終着点を匂わすような表現をしており、あえてそこを外すことで笑いを生み出す。そこで桶が出てくるんだ、と観客にツッコミを入れさせるため。

 

3つめのコントですが、ここからが手法が変わってきます。桶を使いそうなところでなかなか使わない。ふたつめのコントで私達はどこで桶が出てくるんだろうと少し疑いながら見ています。しかし、なかなか言わない。ほんとになかなか言わない。桶を使うべきところでも使わない。あえて、桶によく似たようなものを羅列します。小林賢太郎さんの楽しいパントマイムなどで楽しませながらも、オチはなかなか言わない。次はそういう方法で笑わせてくる。そして、話が盛り上がってきたところで思い出したように桶を使う。拍手喝采。

 

4つめですが、あえて無理やり桶を使ってきます。片桐仁の仕草によく似せてきた小林賢太郎の声がより面白さを引き立てます。「ま、桶屋が儲かるよ」というのは、この話のオチが桶を使うことでなく桶自体に焦点を合わせており、桶を詳しく説明することがこの話の山場であることを表しています。いわば余韻。ここでまた手法が変わってますね。ひょんなことから桶屋が儲かることが、このコントの主題。そんな私たちの予想を裏切り、桶自体へと視点を変える。「守破離」という言葉を皆さんはご存知でしょうか。日本の武道や茶道での師弟関係を表す言葉なのですが、物事を師事する際にはまず師匠の教えを守り、そして自ら工夫することで破り、師から離れていく。それが理想だと言い伝えられています。つまり、ここからは「破」のコントが始まります。

 

5つめのコントですが、もう完全に破られていますよね。今までどれだけ変えたとしても、桶を中心にしていたこのコントが風へと視点を移しています。「風」が物理的なものではなく、比喩的な風である「ブーム」になりました。海外ドラマのワンシーンで桶屋が儲かるようになる。無理やりながらも他のものでならありそうなこと。桶ブーム。「どうせ、桶屋が儲かんだよ」という締め言葉。4つめ、5つめのコントは狙いを少し外してきたクスリと笑わせるものでした。全体を通してみれば、これは小休止と呼べるかもしれません。

 

そして、6つ目のコントです。

 

離れました。この時点で完全に離れましたね。完全に「守破離」の離です。これが言いたくてこの一連のコントを考えただろ。そう突っ込みたくなるような言葉遊び。このコント最大の山場。今までのコントで積み上げてきた先入観をぶち壊して、笑いを誘ってきます。そして、締めの言葉が最高に面白くて、気持ちいい。ここが聞きたくて、2回目からは待ちわびながら見てしまいます。そんな約束されたカタルシスも、一連の流れから生み出されています。最初の定石と呼ばれるようなものからじわじわとコントの型が変わっていく。そして、とどめとも言えるこのコント。書きたい場面から書き、そこへと向かっていくように話を補完する。昔、ある小説家がそう言っていました。この「風と桶に関するいくつかの考察」にはそういう考えで書かれたのではないでしょうか。そして、「風と桶に関するいくつかの考察」は佳境を迎えます。

 

最後のコントです。風、桶、様々な観点から私たちを裏切ってきたラーメンズは風呂敷のうえでとっ散らかした様々なコントを、最後にはオーソドックス桶屋が儲かるで綺麗に包み込みます。いわば、シメのお茶漬け。実話を織り交ぜながら、小林賢太郎の博士パントマイムで楽しませながら、綺麗に話を畳んでいく。静かに終わっていくこの話は、後日談のように私たちに余韻を楽しませてくれます。ひとつ前が騒がしかったことがよりその静けさを引き立て、観客は見入る。そして、このコントの主題でもある締めの言葉「桶屋が儲かる」その言葉で、このコントは終わりを迎えます。

 

いかがでしたでしょうか。「風と桶に関するいくつかの考察」は要所要所の面白さが光るとしても、やはりそれを活かすその構成が素晴らしい。起承転結が上手というか、緩急のつけかたが上手というか。ますだおかだの増田さんが以前「ラーメンズは1分に1回笑わせるので成立させているのがすごい」と仰っていました。短い間に何度も何度も笑いを取らず、長い時間をかけて1つの笑いを取る。そういうスタイルだからこそ、言いたい場面に向かって少しずつ積み上げていくこのコントが生まれたのかもしれません。

 

 

 

 

少し深読みしすぎてしまいましたが、単純に言えばこのコントめちゃくちゃ面白い。

 

それだけです。

 

こちらからは以上です